見立て違い膝の診察は非常に易しいものである。それは、膝関節は解剖学的に浅いところに位置しているために腫脹や変形が直ちに見て取れるからである。そして、関節裂隙を押さえたり膝蓄骨の裏を探ったりと病巣に直接触れたりすることも可能であるからである。何はともあれ右と左を、良い方と悪い方の膝を比べながら診察できるのことが非常に大きいのである。痛いほうの膝はどちらで、それが内側に、外側にあるいは前面にそれとも後方に存在するのか尋ねながら左右比較すれば、確信が得られなくても障害が存在するかどうかぐらいは容易に見当がつくものなのである。しかしんがら、それがどれくらい悪い状態なのか判断するのは必ずしも容易なことではないのである。安静にしていれば解決するもの、MRIなどの画像診断が必要になるもの、関節鏡検査の適応となるもの、手術で対応せざるを得ないものとざっと言ってもこれだけ多種多様な病態がそこにはある。これにさらなる診療を、あるいは検査を、手術をと何と求められているかを瞬時に過敏に肌で感じ取って対処しなければならない。 なかんずく両側が同程度に障害される変形性膝関節症の診療において正確な判断を迫られるのである。そのことは本症は加齢性疾患の一つで高齢化社会を迎えた今日最も診療する機会の多い運動器疾患の一つとなったからである。屈曲拘縮や変形が強い膝のほうが、腫れや関節水腫が存在する方が、レ線学的に変形性関節症変化が進行した方が痛くて悪い状態の膝かと尋ねてみると、返ってくるのは必ずと言っていいほど医学的な評価に一致しない回答なのである。当たるも八卦当たらぬも八卦という心境になりながらも今日もまた、曲がった膝をなでながら右が、左が、どっちの膝がとブツブツつぶやきながらの見立て違いの診療となるのである。 ( 白岡 格
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