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鼡径ヘルニア(脱腸)… いつ手術をうけますか?

  “ヘルニア”とはからだの組織が正常な位置からとび出した状態を意味します。“脱腸”とは腸がとび出すという意味で、泣いている子供のふくらんだ鼡径ヘルニアに用いる言葉ですが、成人にも用います。  今回は、毎年10万人が手術を受けるといわれる成人の鼡径ヘルニアについて説明します。

  成人の鼡径ヘルニアは、恥骨の両傍の下腹部から陰部もしくは足側にかけた部位において腹膜に包まれた内臓などが皮下へ飛び出す状態です。立ったとき、卵の形の“柔らかいふくらみ”が出現するようなら、ほぼ間違いないと思われます。とくに40歳以上の男性に多く見られます。精子を運ぶ管である精管が通るすき間に頻繁に発生します。加齢に伴う組織の脆弱化と腹圧の上昇で裂けるようです。腹圧をかけることの多い力仕事や便秘がちの状態、また肥満や咳の多い状態に関係があります。

  鼡径ヘルニアは一旦とび出すと習慣的になります。圧迫するサポーターの“脱腸帯”は根本的な治療にはなりません。また放置すると癒着が起こり、もとに戻らなくなり『嵌頓(かんとん)』とよばれる状態になります。さらに血の巡りが悪くなり腸が腐ってしまうと緊急手術が必要となります。1割の人が亡くなるとの報告さえある危険な状態なのです。このため鼡径ヘルニアがわかった時点で手術を予定するのが安全です。

  一般に手術は腰椎麻酔で鼡径部に4〜6cmの切開を行い、人工補填材料を用いて裂隙を補強します。最近は補填材料も進化し、からだに半分吸収される材質や形状記憶リングのついた材料を用います。以前に比べて、手術後の痛みが減り、動きやすさが違うようです。また、大学や専門施設などは、より先進的な腹腔鏡手術がおこなわれます。

  もしも鼡径ヘルニアが疑われた場合は、『痛みがない』、『忙しい』、『はれているけれど、みせるのが恥ずかしい』などの理由で放置せず、ぜひ早めに受診することをお推めします。

(鈴木   秀明)