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「弱さ」の「強さ」

古い話で恐縮だが、『別れのこだま』という邦題のアメリカ映画(Echoes of a Summer、1976)がある。難治の心臓病を患いながらも、(だからこそ)独特の感性を身につけた少女が、12歳の誕生日を迎えるまでの数日を描いた映画だ。

数多(あまた)の名医、大病院から匙を投げられながらも、なお治癒を願って奔走する母親と、病気のことに極力触れないで残された日々を過ごさせてやりたいと願う父親。両親が事あるごとに自分のことで衝突する姿に胸を痛めながら、一方で体調を心配することでは一致する両親が、年相応の娯楽を禁じることに反抗心を燻(くすぶ)らせる少女。

思い立った彼女は隠れて外出しては、たった一人の友人である3歳年下の少年の助けを借りて、誕生日に両親に見てもらうための野外劇の舞台をつくる。誕生日の当日、招かれた両親が目の前の光景を受け入れられないままに、二人の劇は始まる。次第に両親は引き込まれていき、ついには感動の表情を浮かべる。その両親を見ながら少女が心から喜ぶ姿がクライマックスとなる。

この映画をテレビで見たのは医学部の学生のときであった。病いをもつ子どもを各々の立場で必死に思いやる両親が、最も子どもを幸せにしてやれたのは、何かをしてやった時ではなくて、子どもから何かをしてもらって感動した時であったというストーリは、その後、小児科医の道を選んだ私に、少なからぬ影響を与えてきたように思う。

病いや事故に無縁の人生はない。親が、あるいは子どもや孫が、いつ障碍(がい)と向き合うことになるかもしれない。そのような時にあっても、当事者と医療者とが相ともに「弱さ」の中に「強さ」を見出して、新たな地平を切り拓いて行くことができれば…

ダウン症をもつ娘を地域の方々に温かく受け入れて頂きながら、最近、とみにそう思う。

(井上  哲志)