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麻酔科医と麻酔の安全

今から30年ほど前までは、高齢者や心臓・肺の悪い人の大手術はまず行いませんでした。手術や麻酔に耐えられないと考えられたからです。現在では手術患者の年齢制限はないといっても良いでしょう。それなりに元気であれば、90歳でも100歳でも手術を行う時代になりました。この様に手術医療が発達した理由は、より低侵襲な外科技術の開発にあります。また同時に、麻酔を専門の業とする麻酔科医が出現し、より安全な麻酔が行なわれるようになったこともあります。今回この間の麻酔技術の変化・進歩を振り返ってみました。

麻酔の基本的な手技は、点滴、気管挿管、腰椎穿刺等です。この中では特に、気管挿管の手段や道具がずいぶん増えました。気道のトラブルは命取りですので、これらを上手に使いこなすことが麻酔科医にとって必須の手技となりました。

つぎに麻酔中のモニタの進歩があります。以前は、心電計、血圧計、聴診器くらいで麻酔を行っていました。現在はパルスオキシメータ、カプノメータ、筋弛緩モニタ、脳波モニタ(麻酔深度判定)等が普通となりました。ヒトの五感で判断していた生体反応が、数字として示されるようになったのです。中でもパルスオキシメータは、連続的に酸素飽和度を測定できるため、術中の患者の低酸素血症の早期発見に非常に有用です。麻酔中のモニタとして開発されたこの医療機器は、その簡便性と有益性から今では医療現場にとどまらず、介護やスポーツの分野まで広く普及しています。

麻酔に使用する薬についてはどうでしょうか。近年、より早く効きより早く切れる麻酔薬が多数開発されました。またそれらに対する拮抗薬(中和薬)も開発されています。

上記のような医療機器や薬品に対する深い知識と技術を持つ麻酔科医が、慎重な麻酔を行う限りにおいては、現在は「麻酔は安全なもの」と言えるのではないでしょうか。いっぽう今でも医療現場では様々な医療事故が起こっています。麻酔科医は自分たちの知識や技術を応用して、今後もより積極的に医療全体の「安全・安心」に対して関わっていく必要があると思います。

(山内  康裕)