一昔前には、一県一医大構想が終結していよいよこれから医師過剰時代が到来すると言われました。大学医局に入局する卒業生は順に増え、毎年30人以上の新入医局員をもつ有名大学もありました。
その頂点にある教授の権力は絶大であったし、鬼軍曹みたいに目配り気配りのきく医局長や、豊富な臨床経験とそれに裏打ちされた知識の持ち主もいました。そこには色々な問題もありましたが、研究、教育、臨床にと良いバランスがとれ関連病院の人事を通して地域医療の維持、水準の向上に寄与していたように思います。
その真ただ中にいた医師の多くは専門医制度の導入とともに将来の就職先を真剣に心配していました。一方、地域の中核病院は代替え医師は幾らでもいて何時でも希望した医師を獲得できると考えていた節があります。
そして、その予測は見事に外れ、現在は医師不足になり地域医療の崩壊、救急医療の破綻が年々深刻化してきています。このままであれば近い将来外科医不足が表面化し、必要な手術が受けられない事態が発生するでしょう。
優秀な外科医を育てるには、一流の指導医の下豊富な臨床経験が不可欠であり一朝一タにはいかないのです。即ち、相当の時間と情熱のある指導医の存在と設備の整った施設が必要になります。元より外科医を目指す医学生を増やすことが重要であり、国民の寛容な理解と協力がないと絵空事に終わります。
2007年の経済協力開発機構の医療統計によると、日本の人口1000人当たりの医師数は2人と米英独など主要7カ国中最少であり、一人当たりの医療費も最低でありました。このお粗末な医療状況の早急の改善が責務であります。それには、一も二もなく医師不足を解消することにあり、一人前の外科医に育てる教育システムの確立にあります。