新型インフルエンザの流行が始まり変化した光景がある。街中に、来院する患者さんに、マスクをした人が多くなった。一時期、テレビで見る東京は、駅にもイベント会場にもマスクをした人々がいっぱいで、異様な雰囲気が漂っていた。学校では全員がマスクをして授業が行われ、インフルエンザを学校に入れないぞという気迫さえ伝わってきた。店頭からはマスクがなくなり、医療機関でも人手が困難になった。外国のメディアは日本のパニック状態を象徴する映像として報道した。
インフルエンザでは、『うつされたくない』と着用する場合と、他人に『うつしたくない』と着用する場合とが考えられる。ただし、商品テストの結果では、ウイルス対策にマスクの効果は限定的だそうで、『うつされたくない』効果は疑問ということになる。習慣的に着用している私としては、現在は不織布製の、顔の凹凸にもフィットするような形状のものが販売されていて、それなりの効果があるように感じている。咳をする者が着用すれば、『うつしたくない』効果はある。ウイルスを含む飛沫はマスクで捕らえることができるので、空中に撒き散らすことを防ぐだけでなく、ドアノブやテーブルに付着するのを防ぎ、接触感染を防ぐことにもなる。マスクは他人に優しい『咳きエチケット』の道具ということになる。
マスクの効用は感染症対策だけではない。冬の冷たく乾燥した空気は気道の粘膜を傷める。風邪を引きやすくなる理由である。マスクを通った空気は湿度が与えられているので、鼻の機能の補助となる。暖房の効いた室内の空気は乾燥しているからマスクをしていると呼吸が楽に感じる。花粉症の患者さんは是非マスクをした方が良い。花粉を少しでも吸い込まないように工夫することが、つらい期間を快適に過ごす方策である。
こうしてみると、マスクが手放せなくなる。ハンカチのようにいつもポケットに忍ばせて持ち歩いてはどうだろうか。